この記事で伝えたい事
新規事業アイデアは、何枚もの資料で説明するよりも、たった一文でその本質を表現する方が、周りにも伝わるし、自分の軸もぶれない。
新規事業開発のステップを最もシンプルな形で表現すると、
新規事業アイデアを出して、
それを実行・具現化する、
という2ステップとなります。
新規事業・DX担当者が最初にぶち当たる壁は、「一体何をするか」という具体的な新規事業アイデアを構想することです。スタートアップ起業家の世界では、「アイデア」よりも「実行」に価値があると言われがちです。しかし、成熟した大企業において取組む場合では、どちらも同じくらい大事である、というのが私の主張です。本稿では、検証する価値のある新規事業アイデアを効率的なフレームワークについて重点的に解説いたします。
この記事を書いている人(自己紹介)
はじめまして、片倉健です(略して「カタケン」と呼ばれることが多いです)。私は大学を卒業後、新卒でアクセンチュアという外資系コンサルティング会社に就職し、同社の戦略コンサルタントとしてキャリアをスタートしました。その後、ビジネス書籍の要約サイト「Flier(フライヤー)」の共同創業者として起業家の道に進みました。同社を退職後、大企業向けのコンサルタント経験と起業家の経験を掛け合わせて、「成熟した大組織で新規事業を立ち上げる方法」の研究をスタートしました。それから約7年間、複数のクライアント(レガシー日本企業)に深く関与し、数多くの新規事業の立ち上げを試みました。成熟した大企業で新規事業を立ち上げる際に、現実問題として一体何が起こるのか、その問題を解決するために何をしたのか、この経験から得た知見を共有していきたいと思っています。
新規事業アイデアには「構文」がある
いきなりですが、以下の5つの文章の中で「アイデア」と呼べるものは何番でしょうか?すべて選択してみてください。
① 朝早く出社すれば、満員電車を回避できるのではないか?
② コーヒーを飲むと、なぜ眠くならないのか?
③ 街中でスマホの充電が切れたとき、どこに行けばコスパ良く充電できるか?
④ 部下を育成する際、アメとムチなら、ムチの方が育成効率が良いのではないか?
⑤ 部屋に閉じ込められてしまった。どのようにすれば、ドアの鍵を開けられるか?
パッと見たところ、どれも疑問文の形式をとっており、捉え方によってはどれも「アイデア」と呼べるような気もしてきます。私の「アイデア」の定義は、文章の中に「仮説」が含まれているということです。それでは、仮説が含まれているのはどの文章でしょうか。
これを簡単に見分ける方法があります。すごく感覚的な手法になるのですが、文章の最後に「説」という言葉を付けてみてください。最後に「説」を付けて、違和感がある文章には仮説は含まれていません。逆にスムーズに意味が通る文章には仮説が含まれています。実際にやってみましょう。
① 朝早く出社すれば、満員電車を回避できるのではないか?説
② コーヒーを飲むと、眠くならなのはなぜか?説
③ 街中でスマホの充電が切れたとき、どこに行けばコスパ良く充電できるか?説
④ 部下を育成する際、アメとムチなら、ムチの方が育成効率が良いのではないか?説
⑤ 閉じ込められてしまった。どのようにすれば、ドアの鍵を開けられるか?説
こうしてみると、②③⑤には違和感があり、①④はスムーズに意味を理解することができるでしょう。具体的に言うと、①には「早く出社すればいいのでは?」という仮説があり、④には「ムチを与えればよいのでは?」という仮説が含まれています。とどのつまり「こうなのではないか?」という要素が含まれているものが「仮説」になります。
この考え方に倣うと、新規事業やDXに関するアイデアは、「こうしたらよいのではないか?」という仮説が含まれているものになります。具体的な新規事業のアイデアの例をあげてみましょう。以下に示す事業アイデアが、どの会社に該当するか、考えてみて下さい。
① 映画は、レンタルショップにDVDを借りに行くよりも、オンラインストリーミングでレンタルする方が、ユーザーの利便性が高い説
② モノの購買は、小売店に行って購入するよりも、オンラインで購入する方が、ユーザーの利便性が高い説
③ 中近距離の移動は、タクシーに乗るよりも、近場にいる一般ドライバーに載せてもらう方が、ユーザーの利便性が高い説
ここに挙げた「説」は、どれも企業価値が兆円規模のビジネスになったものです。一応モデルとした会社を以下に記載しておきましょう。
①「NETFLIX」などの動画ストリーミングサービス
②「Amazon」「楽天」などのECサービス
③「UBER」などのライドシェアサービス
この中で、③だけは日本では馴染みの薄いサービスかもしれませんが、世界各地ではライドシェアサービスが発達しています。このサービスが生まれたことで、海外旅行のストレスは大きく下がったなぁと私は感じました。①②については、馴染み深い人も多いでしょう。Amazonの創業は1994年のことです。先ほど上げた「説」は既に25年以上前のものですが、今なお拡大し続けています。インパクトの大きい「説」は、何十年にもわたって人類社会に影響を与えるのです。
ここで、先ほどの事業アイデアの文章構造に注目してみてください。ある特定の構造パターンがあることに気が付くでしょう。そうなのです、事業アイデアの文章は全て以下に示す構造になっています。
「(主語:財またはプロセス)は、(既存の方法)よりも、(新しい方法)の方が、(生産性などが高い)説。」というのが、事業アイデアのフレームワークとなります。私が調査した限りでは、世の中のビジネスアイデアの99%はこのフレームワークで説明することができます。試しに、あなたの会社が行っているビジネスや、自分が好きな世の中のサービスを思い浮かべてみてください。それらをこの「説」のフレームワークに当てはめて説明してみてください。驚くほどクリアに、そのサービスが持っている事業アイデアを表現することができると思います。
説の一文フレームワークの特徴
日本語は、他の言語と比較するとハイコンテクストな言語(曖昧な表現となる)であると言われます。日本語を無意識で使っていると、約7割の文章から主語が欠損するそうです。私たち日本語ネイティブは、無意識のうちに主語を省略して会話しています。このフレームワークは、そのハイコンテクストな言語をローコンテクスト化する効果があります。
このフレームワークを用いれば主語が欠損することはありません。これによって、日本語特有の曖昧さを一気に解消することができます。主語には、「財」または「プロセス」が入ります。具体的には、「財:マスク」「プロセス:取引先との契約書のやり取り」などがその例となります。
次の段には、「過去の手法」と「新しい手法」が入ります。私はここに「分析」の要素を入れました。「分析」という単語を聞くと拒否反応を示す人もいるかもしれませんが、「分析」とは端的に言うと「比較すること」です。ここで、「過去の手法」と「新しい手法」を何らかの軸で比較する前置きを作っています。適切に比較を行うために、過去の手法と新しい手法はApple to Apple(同じもので比較する)でなければなりません。具体的な例でいうと、「マスクは、不織布で作るよりも、ウレタンで作る方が」「取引先との契約書のやり取りは、紙で行うよりも、電子で行う方が」といった形式となります。
最後のボックスには、性能・効果を比較する軸が入ります。全てのケースがそうなるわけではありませんが、「労働生産性」「伸縮性」「耐久性」など、「○○性」という言葉になることが多いです。具体的には、「マスクは、不織布素材で作るよりも、ウレタン素材で作る方が、装着時の快適性が高い説」「取引先との契約書のやり取りは、紙で行うよりも、電子で行う方が、業務効率性(郵送業務が不要)が高い説」といった形となります。
ここには、複数の効能軸が入る可能性があります。例えば、電子契約については言えば、「物理的な保管コストがゼロになる」「紛失リスクがゼロになる」といった効能もあるでしょう。多くの効能がある場合は、「説」を最も魅力的に伝えるものを選択すると良いでしょう。
DX施策の場合は、主語が全てプロセスになる
このフレームワークを用いると、「DX施策とは何か」を極めてシンプルに理解することができます。まず、DX施策の場合、主語のボックスには必ず「プロセス」が入ります。「財(例えばマスク)」はDXできません。
「いやいや、例えばマスクにセンサーを取り付けて、咳の音から新型コロナの感染リスクを診断したら、マスク(財)をDXできるのではないか?」
と思った方もいるかもしれません。これが日常的に主語が欠落する日本語の盲点です。このDX仮説の場合、主語は「マスク」ではなくなっていることに気が付くでしょうか。マスクにセンサーを付けて、咳の音で新型コロナの感染リスクを測定する場合、主語は「マスク」ではなく、「新型コロナの感染リスクの診断」というプロセスに切り替わっています。
「説」のフレームワークに当てはめて言うのであれば、「新型コロナの感染リスクの診断は、PCR検査等で実施するよりも、マスクに取り付けたセンサーから咳の音を分析して診断する方が、早期発見につながる説」というような文章構造に変化します。
DX施策なので、説フレームワークの「新しい手法」には「デジタル(Digital)」の要素が必ず入ります。「人工知能」や「ロボット」、「クラウド」や「API」など、デジタル系の技術が含まれている言葉が入ります。ここで補足したいのは、「ロケット」や「3Dプリント技術」、「新素材」など、必ずしも「デジタル」とは呼べないテクノロジーが「新しい手法」に入る場合もあるということです。その場合、DX施策と呼ぶよりも、テクノロジーを活用した新しい手法、と呼んだ方が正確かと思います。
あるいは、「デジタル」を使わなくても事業アイデアを考案することができます。「レストランは、椅子を設置するよりも、立ち食いにする方が、仮に料理の原価率を高めたとしても収益性が高い(収容人数も増え、回転率も高い)説」「自転車に乗る訓練は、補助輪を付けた自転車で行うよりも、ペダルを外した自転車で行う方が、学習効果が大きい説」といったように、「新しい手法」は必ずしもテクノロジーに依存する必要はありません。
しかしながら、デジタル技術をはじめとした各種テクノロジーは、より少ない資源でより多くの成果を生み出す力を持っている便利なツールなのは事実です。積極的にデジタルテクノロジーを活用した「新しい手法(DX施策)」を考案してみてください。
「タイムマシン経営」で事業アイデアを量産する
このフレームワークの考え方をマスターした後は、次は実際に使ってみて新規事業・DXアイデアを考案してみましょう。とは言ってみたものの、ゼロから自分なりの「説」を発想するのは容易ではありません。日常的に対象となる「主語」を意識し、各種テクノロジーを活用した「新しい手法」まで考えなければ、「説」は完成しないのです。
ここで、この思考回路に補助線を引く方法論を紹介したいと思います。その方法論は、端的に言えば、過去に考案された既に世の中に存在する新しい「説」を大量に読み込む、ということです。巷では、「タイムマシン経営」と呼ばれたします。
これを実現するためには、優れた新規事業アイデアを効率的にインプットする必要性があります。そこで私は、「説ログ(https://setulog.com/)」という情報サイトを開発しました。「説ログ」には、海外ベンチャーが取組む優れた新規事業アイデアを説のフレームワークを活用し、たった一文で大量に紹介しています。
発想が豊かな人は、日常的に疑問や事業アイデアが沸いてくるかもしれませんが、全員が全員そうした感性やセンスを保持しているわけではありません(実は私もです)。ゼロからアイデアを生み出すことに自信がない人は、過去のアイデアを客観的に評価し、自分らしさを加えていく方法を採用するのが効果的です。この手法を「TTPS(徹底的にパクって進化させる)」と呼ぶ人もいれば、「タイムマシン経営」と呼ぶ人もいます。
どういうわけか、私たちは「真似すること」=「卑怯なこと」「格好悪いこと」と考えがちです。しかし、あらゆる業界の一流プレーヤーは先人の真似から始めているものです。世界的な歌手であるブルーノ・マーズもハワイでの幼少期には、エルヴィス・プレスリーとかマイケル・ジャクソンのモノマネ芸人として活躍していたといいます。「学ぶ」の語源は、「まねぶ」であり、「真似ぶ」と同じ語源あるとも言われています。ある著名なお笑い芸人の方も、後輩芸人にむけた勉強会において「僕は世に出るためにいっぱいコピーしました」と語っています。
成功する人の中には、自分オリジナルで突き進む才能型の人もいれば、上手くいった人の真似して改善するタイプの人もいます。前者は才能なので再現性がありませんが、後者には一定の再現性があります。先人から素直に学ぶことは、決して卑怯なことではありません。
「説ログ(https://setulog.com/)」には、現時点で1,800社以上の起業家のアイデアが詰まっています。更に、毎月200件ずつ情報が追加されていきます。海外のベンチャー企業が取り組んでいる新しい事業アイデアを見て、批評し、真似て、自分らしさを加えていく。このアプローチで事業アイデアを生む手法は、誰でもできる優良な発想方法であると私は考えています。是非試してみてください。
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