この記事で伝えたい事
ビジネストレンド(時代の潮流)は、専門家の見解に基づいて把握するよりも、海外で成長しているベンチャー企業の実例を大量に読み込んで把握する方が、正確で鮮度の高いトレンドが掴める
新規事業を成功させるには、ビジネストレンド(時代の流れ)の変動に合った新規事業アイデアにチャレンジすることが必須条件です。どんなに素晴らしい新規事業アイデアでも、タイミングがズレるとうまくはいきません。遅すぎるのはダメですが、早過ぎてもダメ、というのがこの問題を非常に難しくしています。
この記事を書いている人(自己紹介)
はじめまして、片倉健です(略して「カタケン」と呼ばれることが多いです)。
私は大学を卒業後、新卒でアクセンチュアという外資系コンサルティング会社に就職し、同社の戦略コンサルタントとしてキャリアをスタートしました。その後、ビジネス書籍の要約サイト「Flier(フライヤー)」の共同創業者として起業家の道に進みました。同社を退職後、大企業向けのコンサルタント経験と起業家の経験を掛け合わせて、「成熟した大組織で新規事業を立ち上げる方法」の研究をスタートしました。
それから約7年間、複数のクライアント(レガシー日本企業)に深く関与し、数多くの新規事業の立ち上げを試みました。成熟した大企業で新規事業を立ち上げる際に、現実問題として一体何が起こるのか、その問題を解決するために何をしたのか、この経験から得た知見を共有していきたいと思っています。
QRコード決済のタイミングについて
例えば2021年のいま、QRコード決済の事業に参入しても、勝てる見込みは薄いでしょう。既に同マーケットには、支配的な先行プレーヤーが存在しており(Paypay)、彼らを追い抜くことは容易ではありません。それでは、今から10年前の2011年に市場に参入していたとしたら、どうだったでしょうか。まず、技術的にはその当時から実現可能でした。というのも、中国のEC大手アリババグループが「Alipay」というQRコード決済機能の提供を正式に開始したのは、2011年のことです。
10年前の日本の市場環境では、スマートフォン普及率がそれほど高くなかったため、恐らく苦戦したかもしれません。加えて、日本の市場環境とは異なり、中国では偽札などが出回っていて、現金の信憑性自体が低かったという要因もあるようです。一方の日本では、その当時すでにクレジットカード決済やSuica決済などのデジタル決済が広く普及していました。小売店には、それらの電子決済を受け付けるための決済端末が既に導入されていました(大抵は小売店側が設備投資をします)。
「paypay」が日本でサービスを正式にリリースしたのは、2018年10月のことです。つまり、日本でリリースされるおよそ7年前に中国で始まったことになります。その後、強力なマーケティング、プロモーション活動(ものすごいバラまいていましたね!)によって、paypayは全国各地の店舗と個人に一気に普及しました。それ以前から同マーケットに参入していたプレーヤーも複数存在しますが、2021年現在では、QRコード決済市場は事実上paypayの一強となっていると想定されます。結果論ですが、QRコード決済市場においては、やや後発で参入したpaypayのタイミングとプロモーション手法は絶妙だった、ということになります。
むしろ、paypayの今後については、他の電子決済手法が充実している日本においては、QRコード決済自体が生き残るのか?という論点の方が重要かもしれません。paypayの決済手数料が他の手段と同等かそれよりも高くなってしまえば、paypayのシールをはがす店舗も出てくるでしょう(端末の投資をしていないので、逆に未練なく捨てられるのです)。逆に新しく出店する店舗などでは、決済端末の購入費用が必要ないpaypayの導入は魅力的に映るかもしれません。利用実体としては、わざわざスマホのカメラを立ち上げるよりも、Suicaやクレカでタッチする方が楽だと感じる人も多いでしょう。
ビジネストレンドが読める専門家は存在するか
それでは、あなたは日頃、ビジネストレンドをどのように把握しているでしょうか。ビジネストレンドを見極めることについては、その重要性を見聞きすることはあっても、実際にどうやるのかを聞くことはめったにありません。「結局はセンスだ!」「考えるな!感じるんだ!」と言われたとしても、全くもって再現性がありません。
新規事業部門の担当者が社内でプレゼンテーションをしたとき、マネジメントからの「なぜ今のタイミングが最適だと思うのか?」と突っ込まれたというシーンを想像してみましょう。この問いに対して「感じるんです!私のセンスです」と答えて、果たして会議を乗り切れるでしょうか。経営者も株主に説明する必要があります。「ある従業員のセンスを信じて、私はある新規事業アイデアに投資しました」と説明して、株主からの理解を得ることができるでしょうか。マネジメントの気持ちになると、苦しいことがわかるかと思います。
起業家の場合は、最初に一人で勝手にリスクを取るだけで、基本的には誰に対しても説明責任がありません。タイミングを外した、という失敗の事実を誰にも知られないまま市場から撤退することができます。しかし、大企業における新規事業ではそうはいきません。なぜ今なのか、とりあえずは納得できる理由を用意できないと、先には進めないのです。
これについて、昔から伝統的に活用されている手法は「専門家の活用」です。感染症対策等における政府の意思決定などを見ていると、「専門家の意見を聞いて、最終的な判断を行う」というフレーズを頻繁に目にするでしょう。これと同じことをビジネスにおいても実施します。具体的には、
専門家のAさんから、「このビジネスのタイミングは見事だ。というのも(~ もっともらしい見解 ~)だからだ。」というコメントを頂戴しています。
ちなみに専門家のAさんは、こういう人です。専門家が言うので、参入タイミングについては、信憑性が高いと思います。
という風に使われます。
ですが、新規事業開発において、専門家の見解が正しいかどうかは不明瞭です。当たり前ですが、誰も未来を正確に読むことはできないでしょう。仮に正確に未来を見通す力を持っているのだとすれば、専門家として新規事業アイデアにチマチマとコメントするよりも、株式投資をするか、自分で事業をやる方が遥かに儲かります。経済合理性がないのです。あらゆる領域で伝統的に活用されてきた「専門家の活用」は、とりわけ新規事業領域においては機能しにくい、というのが私の見解です。
既に成功している海外事例を活用する
それでは、専門家の見解だけに頼りきらずに、適切な回答を用意するにはどうすればよいのでしょうか。これについても、新規事業開発において伝統的に活用されてきたものですが、「タイムマシン経営」と呼ばれる手法が最も妥当性が高いと私は考えています。
「タイムマシン経営」とは、世界のどこかで効果が出る(顧客にとって価値があり、損益として成立する)ことが、ある程度証明されたビジネスを、他の市場で展開する手法です。まるでタイムマシンに乗って、未来を見てきたかのように語ることができます。先ほど挙げた中国の「Alipay」と「paypay」の関係がその具体例となります。もっと大きな規模で話せば、米国「GAFA」と中国「BAT」の関係も一つの例と言えるかもしれません。
日本で急成長しているベンチャー企業も、「実はタイムマシン経営だった」というのはよくある話です。起業家たちが堂々と「海外モノをパクりました!」と語るケースはあまり見受けられません(心のどかかで「パクリは格好悪い」と思っているのだと思います)。既に世界のどこかでうまくいったビジネスモデルは、全く前例のないビジネスを新しく行うことよりも、成功する確率は高いでしょう(仮に市場環境が似ている場合において)。完全に模倣しないまでも、その本質を真似するだけでも、事業の成功確度は高まるでしょう。
例えば、このように説明します。
家畜の管理は、ウェアラブルデバイスを付けて行うことによって、明確に業務効率性が高くなります(エビデンスを提示)。家畜のウェアラブルデバイスは既に日本でチャレンジしている起業家が存在します。これに関して、魚の養殖についても同様の手法が実現できると考えられます。この領域は、まだ日本に支配的な先行プレーヤーが存在しません。次にウェアラブルデバイス管理が普及するのは、魚の養殖です。魚に取り付ける、ウェアラブルデバイスは、、、特許申請の状況は、、、
※完全な例え話であって、本当かどうかは知りません!
こう語ると、とたんに説得力が増します。現実的には「タイムマシン経営」と「専門家のコメント」を組み合わせて活用するのが、経営層に対する一番ディフェンシブな主張となるでしょう。
海外事例を一文で大量インプットする
それでは、「タイムマシン経営」を実践するために、優れた海外の先行事例をどうやって掻き集めればよいでしょうか。「調査する時間もノウハウもない」という方が大多数でしょう。そこで私は、既に成果が出始めている海外事例を大量にインプットするための情報検索ツール「説ログ(https://setulog.com/)」を開発しました。
ここで、基本的な前提情報を共有させてください。まず、私の考案したフレームワークを用いれば、あらゆる事業アイデアはたった一文で表現することができます(下図)。
「(主語:財またはプロセス)は、(既存の方法)よりも、(新しい方法)の方が、(生産性などが高い)説。」という文章構造となります。こちらのフレームワークに関する解説は以下の記事で詳細に行っていますので、そちらをご参照ください。
例えば、
家畜の管理は、飼育員が手作業で管理するよりも、家畜に取り付けたウェアラブルデバイスから情報を取得し、データに基づいてAIと飼育員が共同で管理する方が、業務効率性が高い説。
といったように、その会社が取組む新規事業アイデアをたった一文で表現することができます。ビジネストレンドを把握するという点について、この一文で十分に目的を果たせるでしょう。
こちらの情報検索サービスですが、フレームワークに基づいた「説」を大量に掲載しているので、「説ログ」と言います。
まずは周辺事業領域の最先端を把握
無料会員登録で、先駆的な事業アイデアをたくさん閲覧することができますので、是非活用してみください。世界のどこかで、実際に成果が出始めているビジネスの一次情報に触れることによって、あなたもまずはじめにあなたの事業の周辺・関連領域の時代の潮流、ビジネストレンドを把握できるようになると思います。(あまり無いことですが)それでも不十分な場合に、別の領域での最先端事例を組み合わせる事を考えていくと良いでしょう。
是非有効活用してみてください。
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