米国ではユニコーン企業が何社も誕生し、国内でも大手企業による投資が相次ぐなど、いま最も熱いビジネストレンドの一つとして注目を集めるD2Cモデル。しかし、従来の一般的な通販との違いを、いま一つ理解できずにいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで本稿では、そんなD2Cモデルの一般的な定義と特徴について解説したうえで、知る人ぞ知る、海外のD2Cブランドの成功事例6選をご紹介いたします。
そもそもD2Cとは、「Direct to Consumer」(ダイレクトトゥーコンシューマー)の略語で、メーカーやブランドが自社製品を自社のチャネルで直接顧客に販売するビジネスモデルのことを指します。D2CやDtoCと表記されますが、意味としてはどちらも同じです。
SNSの普及にともない、消費者が気軽に企業やブランドと繋がることができるようになった今、特にデジタルネイティブ世代やミレニアル世代にとってD2Cビジネスはごく当たり前の存在になりつつあります。
米国では、Warby Parker(メガネ)、Everlane(カジュアルウェア)、Away(スーツケース)など、創業3〜8年程度のD2Cブランドが年商150〜400億円規模に超急成⻑を遂げており、小売業界のさまざまな分野で業界のディスラプト(再編)が進んでいます。
それでは、D2Cモデルとは具体的に何であり、どのような特徴を持つのでしょうか。 様々な定義がなされており、明確なものが存在するわけではありませんが、ここでは代表的な3つの定義をご紹介します。
D2Cは、その名の通り自社の保有するチャネルで商品を直接販売するビジネスモデルです。したがって、商品の発売前からSNSで潜在顧客を集めてコミュニケーションをとる、お問い合わせをSNSのダイレクトメッセージで受け付けるなど、消費者と極めて近い関係性を築くことができます。顧客と直接的かつ双方向的な対話を行う点は、D2Cビジネスの大きな特徴です。
これにより、「機能性」や「価格」などの「モノ(=商品)」を重視した消費行動を対象とするAmazonなどのモールを利用する場合とは異なり、ブランド独自の世界観やストーリーといった「コト(=体験)」を提供することが可能になります。優れたワールドビルディングと文脈形成力を武器に、ファンに共感や強い没入感を与え、熱狂を生み出すのがD2Cの真骨頂とも言えます。
「モノではなくコトを売る」の代表例としては、「スーツケースではなく旅の喜びを売る(スーツケースD2Cのaway)」や、「マットレスではなく良質な睡眠を売る(高級マットレスD2CのCasper)」が挙げられます。
自社チャネルでブランドを展開するということは、すなわち、すべての工程を自社の管理下におくことができる、ということを意味します。プロダクト開発から広告などによる集客、物流、コールセンターなどのCS対応といった工程も含むことから、D2C事業は総合格闘技に例えられることもあります。
一方で、工程ごとに他社に外注する体制とは異なりサプライチェーンを垂直統合するため、ブラックボックスとなりがちな工程における状況やコスト構造が明確になります。これにより、中間コストの廃止を実現するとともに、顧客の声に対してあらゆる工程が迅速に対応し、その結果を即座に検証して再度対応を行う、という高速なPDCAを回すことができるようになります。
垂直統合されたサプライチェーン上のあらゆるタッチポイントにて一貫性のある施策を打つことで、LTV(Life Time Value: 顧客生涯価値)をより高めていく、というのはD2Cブランドの大きな特徴のひとつでもあります。
オンラインを主戦場とし、サプライチェーンの各工程も自社でおさえることで、あらゆる顧客行動をデジタルデータとして直接保有することが可能になるため、商品開発やウェブサイトのUI/UXから店舗の出店計画まで、ビジネスのあらゆる面に定量的なデジタルデータを生かすことができます。
こうしたデータは、いわば顧客のアクティビティログであり、ダイレクトな対話による定性的な「顧客の声」にならび重要な、定量的なもう一つの「顧客の声」と言えます。こうした「顧客の声」をリアルタイムで可視化し、あらゆる意思決定に利用する「データドリブン」な経営を行うことが重要です。
それでは、近年なぜ「D2C」が話題性を持つようになってきたのでしょうか?
様々な背景はありますが、大きく以下の3点がしばしば指摘されます。
保管・物流・決済・サイト構築など、専門性が高くかつ小規模ブランドでの実施ハードルが高い業務を、手軽にクラウドサービス等で代替することが容易になってきています。これにより、規模の大小を問わず企画に集中してブランドを立ち上げることが可能になり、D2Cブランドの立ち上げやすさが近年劇的に改善されています。
代表的なサービスとしては、FBA(保管・物流)、shopify(決済)、BASE(サイト構築)などが挙げられます。いずれも、専門的な知見を有していない人間が容易にそれぞれの業務構築ができるようなサービスです。
SNSを中心とした顧客とのダイレクトな対話によりエンゲージメントを行うことで、「意味のある」消費行動を好むデジタルネイティブ世代・ミレニアル世代といった顧客層を取り込むことに成功したD2Cブランドが出現している、というのは大きな要素の一つです。
小売店に卸す、といった旧来の小売には不可能であった、顧客1人1人の行動ログのトレースがデジタルで実現した、という点も重要です。これにより、経営における意思決定の大半を定量的に行うことができるようになり、自ずと資金調達(とそれに伴う急成長)へのハードルがかつてに比べて大きく下がりました。
それでは、実際に海外のD2Cブランドの成功事例をいくつか見ていきましょう。
ここでは、まだ日本国内では大きな注目を浴びているわけではないものの、海外で多額の資金調達を果たし、一定の成功をおさめているブランドを中心にご紹介いたします。
Leesaは、ダイレクトマーケティングのベテランであるデイビッド・ウォルフと、マットレス製造3代目のジェイミー・ダイヤモンスタインの2人が2014年に創業した、高級寝具(マットレス)を取り扱うD2C企業です。
同じくマットレスD2Cブランドであり、300億円以上の調達をしているCasperなどに代表される競合ブランドとくらべると、知名度やメディアの注目度はまだ決して高くはありませんが、新興ブランドが勃興する米国マットレス市場において急成長をつづけており、すでに30億円以上の調達を実現しています。
100%アメリカ製であり、注文を受けてから製造・圧縮して丸めた状態で直接玄関まで届けられることが特徴的です。万が一品質に満足できなかった場合に備えて、100日間のお試し期間も用意されています。
事業仮説を一文で表現すると:
Bravo Sierraは、L'Oréalの元幹部2人が2018年に立ち上げ、兵士向け美容・ウェルネス製品のD2Cスタートアップです。
水なしで使用できるシェービングフォームや、シャワーが利用できないときに現場で使用できる頑丈なワイプなどをラインナップしていることが特徴で、同ブランドは明確に現役の兵士を対象としています。
これまでに20億円近い調達を果たしており、軍用の製品ラインを拡大し、アウトドア愛好家へのアプローチを強めていく計画です。
事業仮説を一文で表現すると:
ニューヨークを拠点とするPublic Goodsは、環境に配慮した生活必需品を販売しているD2Cブランドです。
創業者のMorgan Hirshは、「環境と健康に優しい商品を探すことは困難であり、たとえ見つけたとしても高価である」という問題を解決するため、Costcoのように59ドルの年会費を設け、会員に原価で販売するという収益モデルを採用しています。
無印良品のような「シンプル」なブランディング戦略によりマーケティング費用を抑えるとともに、再利用可能で簡易的なデザインの包装を取り入れている点も特徴的です。
これらの結果、会員は小売価格よりも約70%安い金額での購入が可能で、Amazonと比較しても60%近く安い価格を実現しています。
事業仮説を一文で表現すると:
インド・ムンバイを拠点とするLagom Labs社が運営するNuaは、女性の健康とウェルネスをテーマにした製品やサービスを提供するD2Cブランドで、生理用ナプキンの製造と販売を手がけています。
Nuaの生理用ナプキンは、表面にプリントや香水などの化学物質を使用しておらず、便利な使い捨てカバーに入っています。
事業仮説を一文で表現すると:
Burrowはモジュラー設計で、ライフスタイルや居住シーンにあわせて様々な調整が可能なソファのブランドです。送料無料、30日間返品無料で、コンパクトな箱で配送され、組立も工具なしで10分で完了する点が人気を博し、累計50億円以上の調達を果たしています。
創業は2016年であり、代表的なD2CブランドであるCasperやJet.comに投資実績のあるTony Florenceが取締役として参画をしています。
事業仮説を一文で表現すると:
ここまでD2Cの定義と事例を見てきましたが、これらはあくまでもフレームワーク、すなわち手段であり目的ではありません。
これまで具体的な言葉になっていなかった「仕組み」が成功事例から抽象化され、平易な言葉に転換され、これを活用するチャンスが到来している、と考えるのが適切でしょう。
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