20パーセントルールを活用した新規事業推進~凸版印刷様の事例~

作成日: 22/01/16 03:00
更新日: 22/02/14 03:00

凸版印刷株式会社様では、2020年度に全社横断型のDX推進組織である DXデザイン事業部を設立し、多種多様な業界に向けたDX推進サービスの開発や自社の業務プロセスの改革、環境整備に取り組まれています。

今回は、DXに関する事業創造と人財(人材)育成を目的とした「WB新サービス」プロジェクトを立ち上げ、推進しているDXビジネス推進本部のご担当者様に、プロジェクトの内容やビタリーとの協働についてお話を伺いました。

  

DXデザイン事業部 事業推進センター 副センター長 飯塚修弘 氏

同センター DXビジネス推進本部 ペイメント事業推進部 部長 大熊浩一 氏

同部 事業開発チーム 課長 畠山徹 氏

エネルギーを持った社員が有志で立ち上げたDX推進プロジェクト

「WB新サービス」概要

取り組み概要

・2019年12月に発足した DXに関する事業アイデアの立案、事業性検証を行うプロジェクト

・プロジェクトメンバーは有志で集まり、既存業務を行いながら20パーセントルールの範囲内で新規事業の立案・推進に取り組む

・事業アイデアの立案に関しては、ビタリーが提供する「説」のフレームワークや、事業アイデアのデータベースである「説ログ」を活用   

取組成果

・活動から約2年間で50名程度が参加

・約1,000件の説(アイデア)が生まれ、うち約30件強を事業性検証(顧客インタビュー等)フェーズへ移行

・うち3件はPoC(プロダクトを開発、顧客への導入)に着手中

ー「WB新サービス」プロジェクトの背景や社内における位置づけについて教えてください。

飯塚氏:当社ではDXを推進するために2020年度にDXデザイン事業部を設立しました。 「DXの組織が新たにできるらしい」という話を受け、有志でフライング的にDXの新しいネタを考えるために立ち上がったプロジェクトが「WB新サービス」(以下、WB)です。 当社としては、DXに関するサービスでの売上高を2026年3月期に5,000億円まで引き上げるという目標があり、多くの新規サービスを立ち上げていく必要がありました。プロジェクトが発足してから3カ月後の2020年2月には、有志でメンバーが集まり、ビタリー社の協力の下でアイデアワークショップを行いました。

畠山氏:強制ではなく、自社の中でエネルギーを持っている人間が「やりたい人は手を上げて」という呼び声を受けて、立ち上がったイメージですね。

現業に取り組みながら20パーセントで新規事業にチャレンジ

ーWBでは、新規事業専任の担当者を設けるのではなく、有志で集まった社員が業務時間の20パーセント程度を目安に新規事業に取り組まれていますね。経緯や具体的な内容について教えてください。

飯塚氏:他社でも「20パーセントルール」を採用している会社はありますが、実際にビタリー社と新規事業のプロセスを検討し、自社で必要な工数を計算した所、20パーセントに落ち着きました。この「20パーセント」が社内でも浸透し、受け入れられています。 管理職も含めて、関わるメンバーは専任ではなく、20パーセントルールの範囲でプロジェクトを推進しています。新規事業開発への取り組みに「これだ」という鉄板の方法はありません。ですが、我々としては現業をやりながら新規事業にも取り組む方法を模索し、その落としどころが20パーセントだったというイメージです。

畠山氏:実際に取り組んでみて、20パーセントというのは「プレッシャー」のかかり具合が程よいと感じています。20パーセントの範囲でも新規事業に真剣に取り組むことで、通常の業務が息抜きになるところもあるかもしれません。

大熊氏:20パーセントルールでの新規事業への取組を通じて、通常の業務とは違う形でのメンバーの成長が見えます。新規事業では通常の業務とは異なる動き方が求められますが、アイデアを立案するだけではなく、実際にPoCに進んでいるものが何件あります。 メンバーが現業に関わりながら、新規事業に取り組む経験を得られることは、人財の成長に繋がっていると感じます。

畠山氏:現業で一緒に働いているメンバーに対しても、WBを通じて「この人はこんな力があるのか」という新しい発見をすることがあります。地方の観光活性化に関する新規事業の検証シーンで、携帯に不慣れな年配の方に対し、メンバーが携帯の使い方からサービスの利用方法までしっかり教えている姿を見て、意外なコミュニケーション力を感じたことがありました。

飯塚氏:従来の組織の中では拾えない各人のスキルが見えると思いますね。

畠山氏:WBのプロジェクトの中で、実際に新規事業を推進する上での縁の下の力持ち的に動いてくれているメンバーの顔を浮かべてみると、いわゆる新規事業部門の主担当になるような方とは少し違うキャラクターという印象です。 今回20パーセントルールで新規事業に取り組んでもらうことで、彼らが新規事業という場面でどのように動き、貢献できるのかが見えるようになりました。

PMO支援で20パーセントルールを実現

ー運用上の苦労や工夫していることはありますか。

飯塚氏:新サービス開発活動では、継続的にプロジェクトを運用していくことが重要です。ビジネス部門として業務の繁閑がありますので、プロジェクトを回す役割を結果的にビタリー社に依頼したのは成功のポイントだと思います。 例えば重大なシステム障害が起きれば、管理職やメンバーはすべての業務を投げうって対応する必要があります。WBではビタリー社がPMOとして、参加できない管理職やメンバーがいてもプロジェクトを進行してくれます。

実は、ビタリー社とは2019年の頭に社内の別プロジェクトで知り合ったのですが、一般的なコンサルとは違い、一緒にプロジェクトの在り方・進め方を考えて作っていく伴走型の姿勢に共感し、WB立ち上げの際に声をかけました。

片倉社長自ら、様々な起業経験を経て新サービス開発・推進の実態を知っているからこそ、フレームワークやプロセス論ではなく、実践者としてどのようなサポートが有益かを理解されています。 新サービス開発に注力する組織が必要かどうかという問いに対し、『新サービス開発は、最初のうちはアポイントがばんばん取れるわけでもないし、20パーセントくらいがちょうど良いのでは』とビタリー社が答えたことがありますが、そういったバランス感覚も我々が気に入っているポイントです。

質の良いビジネスアイデアを、大企業ならではの強みを活かして事業に育てる

ーWB新サービスでは、ビタリーの「説」フレームワーク等も活用いただいていますが、アイデアの創出方法や、評価のポイントを教えてください。

飯塚氏:WBでは、ビジネスアイデアの創出に特化しているのがポイントです。プロセスに注目したりする方法もありますが、やはりアイデアが良くないといくら磨いてもダメだと思います。

畠山氏:あとは、やはりビジネスのタネは数の多さも重要ですね。

飯塚氏:もちろん収益になるかという観点も欠かせません。あれば便利なサービスというだけではなく収益性が見込めるかどうかはポイントだと思っています。

畠山氏:アイデアを生み出すという観点では、普段から新しい物事に対していかにアンテナを張っているかが重要だと感じています。日常的にアイデアを考えている人や考えることを訓練されている人はそこまで多くありません。 だからこそ、普段の日常生活の中から少しでもアンテナを立てる考え方を定着させていく必要があると感じています。ビタリー社の「説」のフレームワークは、日常の気付きをビジネスアイデアにしていく上で非常に便利だと感じています。日々の生活の中で、何か不便だなと思ったら、説のフレームワークに当てはめて考えられることができる。

我々の部門(DXビジネス推進本部 ペイメント事業推進部)は当社の中では珍しいサービス提供で売上を立てている部門なので、モノづくりをベースとする事業部とは社内でも少し考え方が違う所があります。我々としては、メンバーに協業型のビジネススキームにチャレンジしてもらいたいという気持ちもあります。

飯塚氏:当社には、資本力で市場シェアを取りに行ったり、ベンチャーのような圧倒的スピード感で事業を推進したりといった競争力はあまりありません。一方で歴史の長い企業であることから、ビジネスパートナーとしての信頼性や一緒にビジネスを作っていけるパートナーとして見てもらえるかという点には拘っています。 継続的な関係を構築できないサービスは自分の首を締めてしまうと思うので、一人勝ちではないモデルを作れているかどうかもポイントです。

新規事業へのチャレンジが、人とチームを育てる

ーWB新サービスを通じて、実際にどのような効果がありましたか。

飯塚氏:プロジェクトの基本的な目標は次の収益事業の柱を立ち上げることです。(※実際に、2022年6月時点で、3件のビジネスアイデアがPoCフェーズへ進んでいる) ただ、実際にやってみると「人財育成」などの副次的な効果があったと感じています。

畠山氏:もちろん数字の部分はしっかりと基準を設ける必要がありますし、凸版印刷がやるべき規模なのかを熟慮し、数字を達成することはもちろん大切です。ただ、メンバーを見守っている立場からすると、数字に現れない部分の価値も大きいと思います。実際にWBの参加者にはアンケートもとっているのですが、数字だけでは読み取れない色々な価値を感じてもらっていることが分かりました。

WB参加者へのアンケート結果

プロジェクト参加メンバーは、新規事業の業務難易度は非常に高いと感じる一方で、やりがいも大きい。また、多くのメンバーは参加することで新規事業開発のスキルの向上実感を得ている。

【新規事業開発に対する課題意識やWBに参画して良かったこと】

・WBでは普段の業務では使わない脳を鍛えることができ、社会人としてより成長できていると感じます。

・自分で考えて企画書を書いて、企業に持っていく経験は大きい。普段の生活でもっと「こうだったらいいのに」と考えることの大切さも学べました。

・ヒアリングの中で様々な顧客の抱える課題についてリアルな意見を知ることができ新サービスに取り込むことの意義を感じました。

・WB新サービスに関与して通常業務以外での学びや経験を得ることが出来ている点が恵まれていると感じています。

・仮説立案を行うことは日常生活やお客様の提案の中にも活きており、今後も重要なスキルであると感じています。

・まだ参加したばかりですが、やりたいことを創造できる環境にあると感じるので、事業化できるものをまずはやってみたい気持ちになっています。

ー今後のプロジェクトに対する思いや展望についてお聞かせください。

大熊氏:まず何よりも、このプロジェクトをしっかり継続していきたいと思っています。新しいビジネスを生み出さなくてはいけないという前提もありますし、人財育成効果も大きいので、きっちりと継続していきたいと思っています。現状、PoCまで進んでいる案件もいくつも出てきており、これからが事業化のトライフェーズです。事業部の中でもプレゼンスをあげていきたいと考えています。

畠山氏:今後参加者をもっと多くしていきたいと思っています。現状は、20パーセントルールの中で新規事業をやりたいという社員に門戸を開いて、来るもの拒まずのスタンスで運用しています。もちろん、正直に言って20パーセントで新規事業に取り組んだからといって、現業の業務量がすぐに減るというわけではない。それでもやりたいという情熱を持ったメンバー、WBを卒業してからも「新規事業をやりたい」と手を上げるメンバーがもっと出てきてほしいと思っています。

WBに関わる人の数を増やして、卒業する人も、新たに参加する人もどんどん循環させていきたいです。20パーセントルールでのチャレンジは、特に若い社員にとってチャンスになるはずで、やらない手はないと思います。仮に失敗してもリスクが少ない。こういったチャンスは、等しく色んな人に与えられるべきだと思います。現業で「できるけど、あまりやりたくない仕事をやっている」という人がいるなら、WBで自分のやってみたいことにトライしてほしいですね。

飯塚氏:WBは、そもそも誰かから頼まれたものではなく、現場が自発的に進めたプロジェクトです。そのプロジェクトに対して、意義を理解してもらい、予算をつけてもらっている状態です。我々としては、20パーセントルールではなくて、20パーセントオポチュニティーだと捉えています。この有益な機会を多くの社員に活かしてもらいたいと願っています。

凸版印刷株式会社

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