【急がば回れ】新規事業部門は「BPR」から始めよ

作成日: 21/05/10 06:56
更新日: 21/07/01 06:56

この記事で伝えたい事

新規事業部門は、いきなり新規事業開発から着手する(オフェンス)よりも、敢えてBPR施策から着手する(ディフェンス)方が、結果的な成果につながりやすい。

成熟した大組織において、新規事業開発を推進することは、簡単なことではありません。一般的に組織が肥大化、成熟化するにしたがって、意思決定はどんどん保守的になります。特に合議制の意思決定を重んじる企業であれば、「大きな収益が期待できる半面リスクの高い新規事業」よりも「低リスクに収益性改善を実現するコスト削減の取組み」の方が、好まれるでしょう。単にそっち方が合意しやすい、という話です。

しかし、最近では日本のレガシー大企業も「このままではいけない」と経営層が危機感を持ちはじめているようです。その証拠として、中期経営計画において「新規事業開発」をミッションとして掲げている上場企業が非常に多く目につきます。こうした企業では、「新規事業・DX企画室」「新規事業企画部」といった組織が新たに新設されています。

専任部署が設立されていたとしても、実態として「新規事業をなんとかしろ!」というトップダウンの指示で立ち上がった部門の多くは、その進め方に迷走しているのではないでしょうか。

「新規事業などやったことがない」

「AIを活用しろ、と言われても、社内にそんな知見はない」

現場からこう言った声が聞こえてくるのも無理はありません。

ここで、私は新規事業部門の皆さんに敢えて「急がば回れ」の提言をさせて頂きたいと思います。タイトルにも書いてある通りですが、端的に言えば「新規事業部門は、社内のBPR推進(社内の業務改革)から始めよ」というのが私からのメッセージです。

「え?新規事業部門なのにBPR?」

と疑問を感じる方も多いかもしれません。しかし、新規事業部門が敢えてBPRから始めることには、非常に大きなメリットが存在します。本稿では、そのメリットについて解説致します。

この記事を書いている人(自己紹介)

 はじめまして、片倉健です(略して「カタケン」と呼ばれることが多いです)。

 私は大学を卒業後、新卒でアクセンチュアという外資系コンサルティング会社に就職し、同社の戦略コンサルタントとしてキャリアをスタートしました。その後、ビジネス書籍の要約サイト「Flier(フライヤー)」の共同創業者として起業家の道に進みました。同社を退職後、大企業向けのコンサルタント経験と起業家の経験を掛け合わせて、「成熟した大組織で新規事業を立ち上げる方法」の研究をスタートしました。

 それから約7年間、複数のクライアント(レガシー日本企業)に深く関与し、数多くの新規事業の立ち上げを試みました。成熟した大企業で新規事業を立ち上げる際に、現実問題として一体何が起こるのか、その問題を解決するために何をしたのか、この経験から得た知見をブログ記事として共有していきたいと思っています。

「BPR」は巷では「DX」と呼び名を変えたようです

新規事業部門がなぜBPRから推進するべきか、という議論を始める前に「BPR」について確認しましょう。「BPR」とは、「Business Process Reengineering」の略称で、既存の業務プロセスを再構築、変革する取組みです。具体的な例でその概要を確認したいと思います。

BPR施策の例

・これまで正社員で行っていたことを、派遣社員ができるように業務設計し直し、役割分担を見直す

・業務プロセスの一部を廃止し、簡略化する

・これまで人力で行ってきた作業を、RPAで自動化する

・コールセンター業務の大部分をチャットボットに切り替える

具体的な施策例をあげればキリがないのですが、例えば上記のような施策がBPRとなります。一昔前であれば、「BPR?なんだそれは?」と飛び道具のように聞こえたものですが、最近ではビジネス業界に広く馴染んできたように思えます。「BPR」と言う単語は、もう新鮮さがなく、この言葉を使っても顧客から振り向いてもらえない、要はマーケティングにならない、と言う話になっています。

こうなってしまうと、ソリューションベンダーは次なるトレンドワードを探そうとするものです。その代表格が「DX(デジタルトランスフォーメーション)」でしょう。「DX」はここ数年で急速に広がったワードです。一般的に世間では、BPR施策のうち「デジタルの要素が含まれるもの」を「DX施策」と呼んでいるようです。ですから、先に挙げた4つの例でいうと、後半の2つは「DX施策」と呼ぶことができるでしょう。RPAやチャットボットなどは、わかりやすく「デジタル技術」です。

ここで一つ説明の補足をさせていただくと、社内のBPR観点だけではなく、デジタル技術を用いた新規事業開発も同様に「DX」と呼ばれているようです。とどのつまり、「DX」は「BPR」の側面と「新規事業」の側面の両方を兼ね備えたビジネスワードということになります。新規事業の側面のことを「攻めのDX」、BPRの側面のことを「守りのDX」と呼ぶ人もいるようです。私もこの言葉は便利だと思っているので、この後の説明でも使っていこうと思います。

新規事業の成功のカギは「存続すること」

それでは、新規事業部門がなぜ「BPR(守りのDX)」に取組むべきなのかについて、その理由を解説をしていきたいと思います。

殆どの新規事業の取組みは残念ながら、短期的に成果が出ることはありません。最初の数年は赤字を垂れ流し、5~6年経つ頃に徐々に芽が出始めるものです。新規事業開発のステップをもう少し具体的に整理してみましょう。

① 取り組む価値のある新規事業のアイデアを複数考える

② アイデアを絞り込むためにヒアリング調査等を実施する

③ アイデアを具体的なプロダクトにするため経営の承認を得る

④ プロダクトを開発する

⑤ 市場に出す前に、各種社内規程に準拠しているかチェックを行う

⑥ 初期的な営業活動を行う

⑦ 初期の顧客が「購入してよかった」と思うまでサポート・改善する

⑧ アーリーアダプター層に対してマーケティング活動を実施する

下手をすると、Step.8までは赤字が続きます。あなたの会社でStep.7までを進めるとすると、現実的に考えてどの程度の時間が必要でしょうか。このようにステップを分けて考えてみると、実際には5~6年などあっという間に経過してしまいます。

ここで私は、更に現実的な次の質問をしたいと思います。

「あなたの会社(の経営層)は、5年間赤字を垂れ流すことに我慢できますか?」

この質問に対して一切迷いなく「Yes」と回答できる方は、非常に恵まれた環境にいると言えるでしょう。残念ながら、殆どの会社では、5年など待ってはもらえません。

「一体、進捗はどうなってるんだ?」 「成果はいつ出るのか?」 「これ以上、まだ投資が必要なのか?」

私の経験上、新規事業が始まって、約2年が経過する頃に、マネジメント層からこのような声がひっきりなしに届くことになります。結果的に3年目以降の投資を獲得することは困難となり、新規事業部門は存続できなくなります。存続できなくなれば、どんなに素晴らしい事業をしていても、絶対に成果は出ません。結果が出る前に、力尽きてしまうのです。ここからは、徐々にその対応策いついてお話いたします。

私も一人の起業家ですが、経営において最優先にしていることは、何よりも「存続すること」です。キャッシュが回っている限り、アイデアの実現・初期に抱いた仮説の検証を継続することができます。

新規事業とは、自分ではない誰かを変革する取り組みです。相当な外的要因がない限り、変革が急激に進むことなど滅多にありません。例えば、昨今の感染症対策の問題は、一次的にテレワークの波を作っていますが、収束後もこの流れが継続する確証はありません(ちなみに、私は完全に元通りに戻る会社が多数派だと思っています)。

皆さんお馴染みの「Amazon」も、25年以上前に出来たサービスであり、未だに成長を続けています。何が言いたいかというと、新規事業が形になるのには、相応の時間が必要だ、ということです。新規事業が短期で成果が出るものだと考えていると、痛い目を見ます。

「うちの経営層は、短期のPLばかりを追いかけているから、ダメなんだ。中長期的な展望などまるでありゃしない!」

と言いたい気持ちは非常によくわかります。しかしながら、赤字を垂れ流すことへの経営陣の我慢は2~3年が限界です。残念ですが、これは変えることができない与件だと思った方がいいでしょう。いくら正論を振りかざしたとしても、赤字を垂れ流す新規事業部門ごと閉鎖されるのが結末です。

もしあなたが新規事業部門に所属しているのであれば、まずは「新規事業部門が存続すること」を最優先に考えましょう。世界的な投資家であるウォーレン・バフェットとジョージ・ソロスも、「第一の原則は、絶対に損をしないこと。第二の原則は、第一の原則を絶対に忘れないこと(バフェット)」「まず生き残れ。儲けるのはそれからだ(ソロス)」と語っています。存続すれば、あとは勝つまでやればいいのです。

BPRは必ず成果が出る

大変ありがたいことに「BPR(守りのDX)」の取り組みは、ほぼ確実に成果が出ます。これには理由が二つあります。一つ目は、非効率な要素が全くない組織など存在しないからです。二つ目の理由は、テクノロジーが日々進化するからです。前者は敢えてここで触れる必要がないかと思います。後者があるがゆえに、「BPR(守りのDX)」は半永久的に活動を続けることができるのです(完全に人が必要なくなるまで続けられます)。

顧客対応のコールセンターを例に挙げるとすると、顧客の問い合わせ履歴を閲覧したり、電話応対の内容を記入する、コールシステムの導入は一昔前においては、画期的なBPR施策(守りのDX)でした。次に、メールの問い合わせやフォームからの問い合わせなど、顧客に適した形でコミュニケーションが取れるように進化してきました。現在では、チャットボットや音声対応ロボットなどが、コールセンターの存在自体をリプレイスしようとしています。テクノロジーの進歩に合わせて、打てる施策が進化していることがご理解頂けるでしょう。したがって、新しいBPR施策(守りのDX)は必ず検討することができます。

仮に既にBPRの専任部門がいる場合も考えられるでしょう。その場合、特に新しいデジタル技術を活用したBPR(守りのDX)は新規事業部門で担う、と言う棲み分けをすれば良いと思います。実際のところ、「新規事業」と「BPR」の境目は実は非常に曖昧です。

例えば、自社のECサイトで注文について、配送員ではなく、ドローンが配送するサービスを顧客に提供する場合、これは「BPR」でしょうか?それとも、顧客向けのドローン配送オプションという「新規事業」でしょうか?このように、仮に「BPR」の側面が強かったとしても、新規事業部門が着手して違和感がない絶妙な領域が存在します。BPR専任部門が社内に存在する場合は、このあたりでの棲み分けを意識すればよいと思います。

BPR施策を推進する場合は、社内の特定部門をあたかも「顧客」として捉えることができます。例えば、自社のコールセンターの改革を行うのであれば、コールセンター部門を「顧客だ」と考えるようにしましょう。新規事業開発において大変なことは、土地勘のない領域で外部の顧客にインタビューを重ねることです。一方のBPR施策は、極めて簡単に顧客(自社内)にアポイントを取ることができます。しかも、殆どの場合、本音で話してくれるでしょう。

考案したソリューションも、経営層を含め、各関係者に十分に説明する時間を用意することができるでしょう。ソリューションの落とし込みについても、新規事業部門が当事者として関係者の利害調整を行うことで、比較的スムーズに実現することができるでしょう(このステップを「オンボーディング」と呼びます)。結果的にBPR(守りのDX)は、新規事業と比較すると短期で成果を上げることができます。

整理すると、私が推奨するアプローチは次の通りです。まず、最初の1~2年で「守りのDX」施策を具現化して、部門が行ったコスト削減効果を明確に発信しましょう。例えば、早期に億単位のコスト削減施策を実施することができれば、経営層との交渉は極めてスムーズになります。

「コスト削減した分、投資に使わせてください。損にはならないでしょう」

と言えばよいのです。新規事業部門の中長期的な存続を確実にするために、最初の2年を「社内DX」つまり、経営層からの実質的な「資金調達」に使いましょう(経営層も株主に説明しやすいのです)。そして、BPRを推進することは、他にもメリットがあります。

新規事業開発に必要なスキルは「BPR」で習得できる

ここでシンプルな疑問を提示したいと思います。

社内の変革をリードできない人材に、顧客の変革をリードすることはできるでしょうか?

新規事業開発はBPR推進と比較すると、遥かに難易度が高いです。ここでいう新規事業は「顧客の御用聞き」に単純に対応して開発する類のものではなく、顧客に対して「このようにしたらどうでしょう?」と、こちら側から積極的に新しい提案を仕掛けるものだとイメージして下さい。

存続のための資金調達に加えて、BPR推進をするべきもう一つの理由は、担当者のスキルアップです。特にDX観点でBPRを推進したとすると、新規事業部門のメンバーは以下のスキルを身に着けることができます。

① デジタル技術への知見

② 変革を推進する力

③ 仮説立案・仮説検証能力

新規事業とBPRの違いは、端的に言えば「顧客が、社内か社外か」ということです。顧客が社外になると、情報が思うように取得できず、結果として事業の不確実性が高くなります。難易度が高まるのは、これが主な理由です。とはいえ、実際のところ、やること自体に殆ど差はありません。社内DXを推進することで、メンバーの事業開発スキルを強化しましょう。

事業仮説のフレームワーク

BPRと新規事業の差を、もっとわかりやすく定義してみましょう。

次に示す図は、私が提唱している概念なのですが、新規事業の仮説もBPRの仮説も、以下のフレームワークを活用することで、たった一文で明快に説明することができます(こちらのフレームワークの概要は、別の記事で詳しく解説しておりますので、そちらをご覧ください)。

事業アイデアは上記のフレームワークを用いることで端的に一文で説明することができます。先の例を使うと、

○○○の事務処理業務は、複雑なマニュアルを用いて正社員が実施するよりも、マニュアルをシステム化して派遣社員ができるようにする方が、コスト効率性が高い説

というように説明できます。そして、このフレームワークを活用することで、「BPR(守りのDX)」と「新規事業(攻めのDX)」の差を単純明快に説明することができます。

まず前提として、デジタル技術は主語がプロセスの場合にしか使えません。したがって、攻めであれ守りであれ、全てのDX仮説は主語がプロセスになります。これを前提として、主語に社内に存在する既存業務プロセスが入る仮説は「BPR仮説(守りのDX)」となります。主語に社外の業務プロセスが入る仮説は「新規事業仮説(攻めのDX)」となります。

果たしてこんなシンプルに区分していいのか、と疑問に思うかもしれませんが、本当にそうなります。是非、あなたが考えた施策を上記の一文フレームワークに当てはめてみてください。

一文フレームワークで世界中のスタートアップ事例を確認するなら 「説ログ」 https://setulog.com がおすすめです。

メンバーのスキルを高めつつ、コスト削減(資金調達)の成果で新規事業部門を存続させる

以上が私が提唱している、新規事業部門における「急がば回れ戦略」です。まず何よりも新規事業部門が存続することを最優先にしましょう。特にデジタル技術を存分に活用したBPR施策(守りのDX)は、見せ方次第では新規事業のように見えます。ありがたいことに、コスト削減効果も短期的に創出することができます。加えて、守りのDXの取り組みは、新規事業部門メンバーのスキルアップも兼ねており、まさに一石二鳥です。BPRを外部のコンサル会社に丸投げするのは、今回を最後にしましょう。貴重なメンバーの成長機会をお金を払って捨てる行為です。

BPR(守りのDX)によって新規事業部門が、経営層から「彼らは成果を上げている部門だ」と共通認識として認められれば、多少赤字を垂れ流す新規事業にも着手できるでしょう。とはいえ、赤字は最小限にすることです。赤字を最小限にする新規事業の進め方のコツは別の記事で解説しているので、是非そちらの記事をご参照ください。こちらの記事を読むことで、更なる全体感を把握することができると思います。

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新規事業の取り組みは、2~3年で決着がつくものではありません。むしろ、本当の意味で新規事業開発の文化が組織に定着化するには、その10倍(20~30年)かかったとしても全く不思議ではありません。取り組みを存続する中で社内の人材が育ち、仕込んだ種が次々と開花していく、そんな新規事業部門を目指してみませんか?

本稿が皆様の一助となれば幸いです。大企業の新規事業開発担当者の方で、「もっと詳しく知りたい」「ここがわからない」という人がいらっしゃれば、こちらのフォームからお気軽にお問い合わせください。初回相談に限り、無料で実施しています。

※受付後、メールにてご回答致します。

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